9mm パラべラム弾  /  Pistolenpatronen 08

9mm パラべラム

9mmパラべラム弾は1908年にドイツ軍が採用したピストル、ルガーP-08用に開発された弾薬である。


1893年にドイツで開発された世界初となる大量生産されたオートマチックピストル「ボーチャードピストル」の権利を取得し売り込みを図っていたDWM社(ドイツ武器弾薬製造社)は、大きくバランスの悪いこの銃の改良に着手。同社のゲオルク・ルガーが小型化を進め、1898年に試作が完成した「パラべラムピストル」はボトルネックの7.65×21mmパラべラム弾を使用しルガーP-08の原型となった。スイス軍などで採用されるなど先進的で優れた設計であったが小口径ゆえに威力が弱いという大きな欠点があった。

ルガーはこの欠点を改良するため7.65×21mmパラべラム弾のボトルネック部を廃止し、薬莢の長さを若干短縮した新弾薬を開発。弾頭径が9mmとなったこの弾薬が9mmパラべラム弾である。1902年に9mmパラべラム弾を使用するモデルP1902が誕生。さらに小改良が施されると1904年にはドイツ海軍、1908年にはP-08としてドイツ陸軍で正式採用が決定された。以後、9mmパラべラム弾はワルサーP-38やMP38/40などのドイツ軍主要火器の使用弾薬として大々的に使用されていく。

1940年から1944年末の5年間では合計で12億発以上が生産されている。



弾頭重量は普通弾で約8グラム、薬莢の長さは19mm、弾薬の全長は29.6mm。写真の弾薬は鉄芯弾頭とラッカー塗料でコートされた鉄製薬莢の組み合わせで、第二次大戦では最も多く生産されたタイプ。

有効射程距離はピストルで50メートル、短機関銃で100~200メートルほど。小型の弾薬サイズでありながら、パワーと貫通力、弾道低伸性のバランスに優れ、現在に至るまで最も普及している弾薬の一つである。


■薬莢の材質
1938年までは真鍮製薬莢のみであったが、1939年からは真鍮に使われる銅の使用を抑えるために銅メッキされた鉄製の薬莢が採用。1940年にはラッカー塗料でコートした鉄製薬莢が採用され、1942年以降は鉄製薬莢のみが生産されている。このように大戦中に生産された9㎜パラベラム弾の多くは鉄製薬莢であり、真鍮製薬莢は非常に少ないと思われる。


■主な弾種
Pistolenpatronen 08
いわいる普通弾は鉛製弾芯を銅製またはニッケル製ジャケットで覆い弾頭重量は8グラム。初速320m/s。雷管周りの色は黒。なお雷管の周囲に塗料を塗るのは密閉性を高めて、装薬を湿気から守る意味もある。

Pistolenpatronen 08 Für Tropen
湿気が装薬に悪影響を与えないようにするためケースマウス部に黒のラッカー塗料が塗布され密閉性が向上したタイプ。雷管周りの色は普通弾と同じ黒(途中から赤に変更)。

Pistolenpatronen 08 mit Eisenkern
戦争が進むにつれて希少資源となった鉛に代わって1940年に導入された鉄製弾芯を銅のジャケットで覆ったタイプ。鉄の密度が低いため弾頭重量は6.5グラムと軽くなり、初速は410m/sへUPした。この鉄製弾芯は徹甲弾のような貫徹力の向上を目的としたものではなく、あくまでも鉛の使用を節約することが主目的。雷管周りの色は黒。

Pistolenpatronen 08 Sinter-Eisen
1942年からは鉛やジャケットの銅を節約するため、焼結鉄で作られた鉄製弾頭(粉末鉄を高温で焼成したもの)が生産された。弾頭は鉄の地の色となるツヤの無い灰色をしており、弾頭重量は5.8グラム。雷管周りの色は黒。

Nahppatronen 08
初速を音速以下の320m/sに抑えるため、9グラムという重い弾頭に発射薬を減らしたサブソニック弾。サウンド・サプレッサーとの併用を前提に作られており、発射音を抑える。薬莢は識別用に薄い緑色となっており、初期生産分には薬莢のヘッドスタンプに「X」の刻印が入っている。

Sprengpatronen 08
爆薬として使用されるアジ化鉛のペレットを弾頭内に有し着弾すると爆発する。試験のみで量産されていない可能性もあり。

Kampfstoffpatronen 08
1944年にSS(武装親衛隊)からの要求により生産された特殊弾頭。弾頭内部に毒物が充填された毒殺用。

Exerzierpatronen 08
訓練用のダミー弾。本体は金属製で薬莢と弾頭が一体型。装薬や雷管が無い。全体にニッケルメッキが施されている、薬莢側面に穴が開いているなど実弾との区別ができるよう加工されている。

Exerzierpatronen 08 Kunststoff
1940年に採用された樹脂製のダミー弾。全体が樹脂製ではなく、薬莢底部のみスチール製。成形色は黒と赤の2種類。

Beschusspatronen 08
製造された銃の品質試験などを目的に使用する強装弾。通常弾と比べ75%圧力が増している。

空砲は開発が進められていたものの試作またはごく少量の生産で終わり、ほとんど使用されていない。




ドイツ軍のマニュアルに掲載された9mmパラべラム弾のイラスト。弾頭は鉛のコアをもった普通弾。




こちらは発射薬や雷管がない訓練弾。




薬莢から引き抜いた弾頭は鉄芯(Pistolenpatronen 08 mit Eisenkern)のため磁石に反応する。弾頭底部の処理も丁寧。




9mm パラべラムの刻印

雷管を外した状態。雷管はベルダン型で小さなフラッシュホールが2つあるタイプ。第二次大戦中にドイツ軍が使用した雷管は起爆薬に含まれる水銀の有無で大きく2種類に分類でき、雷管カップの色で識別できる。黄銅色が水銀を含む初期タイプ、シルバー/黒鉄色が水銀不使用の後期型となる。




薬莢の内部から底面を見る。フラッシュホールは一つタイプも存在する。




9mm パラべラムの刻印

薬莢底部の刻印。ドイツ軍の場合はさまざまな種類の弾薬が使用されていたため例外もあるが、基本的には4つの項目が刻印される。

薬莢の12時方向:製造メーカー 3時方向:薬莢の材質  6時方向:生産ロット  9時方向:製造年

・「ak」 製造メーカー ※Patronen-, Zündh.- u. Metallwarenfabrik A.G
・「St+」薬莢の材質 スチール製でラッカーコート仕上げ
・「8」  生産ロット
・「44」 製造年 1944年製

真鍮色から、水銀を含む旧タイプの雷管「Zdh.88」が使われていることが分かる。




一つ上で紹介したものと同じ1944年製のスチール製薬莢。「dou.」は Waffenw. Brünn を示す。




1945年製のスチール製薬莢。「fb」は Mansfeld A.G. を示すものと思われる。雷管の色から水銀不使用となったZdh.30/40が使われている。



9mm パラべラム



9mmパラべラム弾は16発入りの紙箱に入れて支給される。当時ドイツ軍で使用していた拳銃であるP-08やP-38は装弾数が8発のため、一箱で2弾倉分、MP40は32発なので2箱で1弾倉分となる。

紙箱はボール紙を箱型に組み立てた単純なものであるが、両サイドの勘合部や内部の仕切りなどに若干の差異がみられる。箱の表には弾薬の詳細が記入されたラベルが貼られるが、ラベルのサイズや貼り位置は写真のように複数種が存在する。




写真のように貼られたラベルは破かないと中身が取り出せない。



9mm パラべラム







9mm パラべラムの紙箱


9mm パラべラムの紙箱

紙箱内部には紙製の仕切りによって8発×2列に弾薬が並んでおり、弾頭部が下向きに収まる。蓋が開けやすいように中央部にはU字の切れ込みが設けられている。




箱の両サイドは固定方法に差異がみられる。



9mm パラべラムの紙箱


9mm パラべラムの紙箱

紙箱から取り出した2種類の仕切り。90度ずつに折られた仕切りを2枚組み合わせて作られたタイプと、連続したS字に曲げられた紙に真っ直ぐな仕切りを通して両端を接着剤で止めたもの。どちらも手間が掛かっている。




9mm パラべラムの紙箱ラベル

紙箱に貼られたラベル。「Pistolenpatronen 08 m.E.」は「ピストル用弾薬 08 鉄芯弾頭」を示す。薬莢・弾頭・装薬・雷管などの各製造メーカー、製造年、生産ロットなどが細かく記載されている。




蓋の内側にメーカーロゴと製造年を示す「1941」の数字が打たれている。




製造メーカー不明の「dqf」と製造年「43」の刻印。




刻印が薄くて分かりにくいが、蓋裏の左側に製造メーカー「gon」(メーカー不明)、右側に「1943」と打たれたタイプ。




これは箱の底に刻印が打たれているタイプ。「kdg」(メーカー不明)と1942年製を示す「42」。




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