ダークイエロー / Dunkelgelb
ここ最近、ドイツ軍車輌・装備品の色に関する新たな資料や模型用塗料の新色が登場するなど「実物の色」に対する注目が高まっている。
そのため以前掲載した「ダークイエローの色を検証」の内容をアップデート。改めて色の検証を行う。
第二次大戦中のドイツ軍の色としておなじみの「ダークイエロー」。ドイツ語では「Dunkelgelb」(ドゥンケルゲルプ)と呼ばれ「暗い黄色」を意味するこの色は、実際にどのような色味であったのか。
ドイツ軍の車輌は当初、カーキ(Erdgelb)、グリーン(Grun)、ブラウン(Braun)の3色迷彩が採用され、1937年以降はジャーマングレイ(Dunkelgrau)とダークブラウン(Dunkelbraun)の2色迷彩、1940年7月以降はジャーマングレイの単色となる。その後、1943年2月18日の通達により車輌や装備品の基本塗装を行う色としてダークイエローが登場する。
これらの色はRAL(Reichs-Ausschus fuer Lieferdingungen ※ドイツ品質保証・表示協会)という工業規格により4桁数字の番号で規定されており、それに沿った塗装が行われていた。43年2月に登場したダークイエローはRAL番号が無く、数か月後(1943年中頃?)にはRAL7028という新たな色味のダークイエローが採用され45年まで使われた、そのため「ダークイエローは2色あった」というのがこれまでの説であるが、最近の研究(AKインタラクティブ)では「ダークイエローは4色が存在した」という説が浮上。真偽は不明であるが、この新説は当時の資料、現存するオリジナル塗装が残った部品を科学的に分析・調査しており非常に説得力がある。以下、その4色の分類。
○ダークイエロー その1(RAL番号無し)
1943年2月に採用された最初のダークイエロー。僅か2か月後には新色のダークイエローが採用され短期間の使用にとどまっているため、使用範囲は狭いと思われる。実際には使われていなかったとの説もあり。
○ダークイエロー その2(RAL7028)
1943年4月に採用。大戦末期まで最も幅広く使用されたダークイエロー。
○ダークイエロー その3(RAL7028 1944年版)
1944年の秋に新たに導入されたダークイエロー。
○ダークイエロー その4 (RAL7028 バリエーション)
現存するオリジナル塗装の部品から上記3つに該当しない色が存在。
ダークイエローは複数色が存在し、さらに戦中では指定通りの正しい色で塗装されているとも限らない事から実態を掴むのは困難と思われる。また、北アフリカ戦線ではダークイエローに似たブラウン(RAL8020・Braun)やグラウ(RAL7027)も使われており、さらに状況を複雑にしている。
なお日本国内で流通した少し古い一部の資料では、最初のダークイエローがRAL7028で後から採用された色がRAL無しと記載されているがこれは間違いと思われるので要注意。
「ダークイエローはどんな色?」
この疑問を検証すべく、本項では再塗装なしでオリジナルのダークイエローが残る装備品を紹介。70年以上前の塗膜が当時の色目を残しているのか疑問もあるが、やはり実物の塗膜には大きな価値があり、複数の個体を比較することで保存状態によるバラつきもある程度防げるのではないかと思う。
ただし、「色の再現」には大きな問題がある。それはディスプレイに表示される画像はさまざまな閲覧環境が影響し正しい色が再現されないという点。「これが実物のダークイエローです」といって本ページに画像を掲載してもあまり参考にはならない。これを防ぐため色の比較として各社から発売されている模型用のダークイエローを用意。どの色がオリジナルに近いのかを検証することで実物の色味の参考にして頂ければ幸いである。
閲覧する環境により正確な色を再現することは困難ではあるが、できる限り正確な色味を再現するため、以下の設定で撮影を行う。
・カラーチャートやグレーカードを用意しホワイトバランスをマニュアル補正。
・照明、シャッタースピード、絞りなどはすべて同一条件。
・被写体の横に色見本を置いて同時に撮影。
参考にした模型用塗料。
上段左から、タミヤ「ダークイエロー」、タミヤ「ダークイエロー2」、AKインタラクティブ「RC062(RAL7028 バリアント)」、クレオス「ダークイエロー」、RAL無しダークイエローを再現したというスプレー塗料(黄色いフタ・ロイド社タッチアップスプレー)
下段左から、ガイアノーツ「ダークイエロー2」、AKインタラクティブ「RC060(RAL7028)」、AKインタラクティブ「RC061(RAL7028 1944年版)」、AKインタラクティブ「RC059(RAL番号無し)」、ガイアノーツ「ダークイエロー1」
AKインタラクティブは日本での入手が難しい塗料であるが、最新考証による4色のダークイエローを再現しており、比較用塗料としては外せない。最新の検査機器を使ったオリジナル塗膜の科学的な調査・分析と専門家の協力により色が作られており、現時点で最も「オリジナルに近い」と思わせる説得力がある。
ガイアノーツは「ダークイエロー2」がRAL7028のカラーチップから、「ダークイエロー1」も当時のカラーチップから忠実に再現したという製品紹介がなされており色味には信ぴょう性がある。塗装サンプルはアクリル樹脂プレートにエアーブラシを使って3度塗りしたものを用意。これを色見本とする。
私感では、
■AK インタラクティブ RC059(RAL番号無し)
カーキ色っぽくガイア・ダークイエロー1やロイド・ダークイエローに近いが黄味が少し強い。
■AK インタラクティブ RC060(RAL7028)
ややグレーがかった緑味を感じるダークイエロー。
■AK インタラクティブ RC061(RAL7028 1944年版)
イエローというよりはグレイに近い。ほかのダークイエローとは異なる独特の色味。
■AK インタラクティブ RC062(RAL7028 バリアント)
全10色の中で最も黄色が強いダークイエロー。
■ガイア・ダークイエロー2
緑味を感じる黄味が弱いダークイエロー。
■タミヤ・ダークイエロー
ガイア・ダークイエロー2に近い色だが少し明るく、黄味が強い。
■タミヤ・ダークイエロー2
AKのRC060(RAL7028)に色味が近似しており、わずかに明るい印象。
■クレオス・ダークイエロー
RAL番号無しを再現したと思われる塗料のなかでは最も明るい色調。
■ガイア・ダークイエロー1
ややブラウンが強い、他と比べて暖色系。カーキにも近いような色。
■ロイド・ダークイエロー
AK RC059(RAL番号無し)を暗くしたような色。
以下に掲載するコメントは実際の装備品に色見本を重ねた目視による結果を重視しています。写真では実際の色が再現されていない部分があり、写真とコメントの結果が一致していない場合もございます。
生産年不明の50連ドラムマガジン。ガイア・ダークイエロー2が近いが、少し暗く、黄味もしくは赤味がある。
刻印から1942年製であるが、ダークイエローで塗装されたラフェッテ対空射撃用支柱。ガイア・ダークイエロー2がやや近いが、実物の方が若干暗い。この支柱の色は50連ドラムマガジンの色に近い。
1943年製のMG34予備銃身ケース。実物はやや暗く、赤味が強いがガイア・ダークイエロー2が近い。写真は塗膜の劣化が少ないと思われるケースの内側。
こちらは銃身ケースの外側。僅かに白っぽい気もするが内側とほぼ同じ色味が残っている。
5本共にオリジナル塗装が残る銃身ケースはすべて1943年製の同一メーカー品。内部の塗膜は僅かに色味が濃い。
1941年製のMG用部品収納箱。41年製なのにジャーマングレイではなくダークイエローで塗装され、再塗装の形跡もない。少々怪しい部分があることを前提に掲載。明るめの色で塗装されており、タミヤ・ダークイエロー2が近い。
MGZ34に使用するペリスコープ。生産年は不明。塗膜の剥離も目立つが、インクスタンプのバッフェンアムトも確認できる。ガイア・ダークイエロー2が近く、実物の方が黄味が強い。
1943年製の50連ドラムマガジン用運搬コンテナ。ガイア・ダークイエロー2をほぼそのまま塗装したような色。
1メートル測距儀に使用するショルダーハーネスの金属フレーム収納箱、その1。外側はグリーンの再塗装が施されているが内側はダークイエローが綺麗に残る。製造メーカーコードは「fwq」。写真はフタの裏側。
ガイア・ダークイエロー2が近く、実物は赤茶色の下地塗装の影響か赤味が強い。
ショルダーハーネス用金属フレーム収納箱、その2。その1と製造メーカーは同一(fwq)。ダークイエロー単色の上に、グリーン系で再塗装されている。大戦後半に見られる明るいオリーブグリーン系で、その1で見られる暗いダークグリーンの再塗装品とは明らかに異なる色味。
オリジナル塗装が残るフタの内側。ガイア・ダークイエロー2が最も近いが、こちらも若干の赤味を感じるダークイエロー。
ショルダーハーネスの金属フレーム。オリーブグリーン再塗装の箱に収納されていた品。製造メーカーは収納箱と同じ「fwq」。やや白っぽく明るいがガイア・ダークイエロー2が近い。
生産年不明のMGZ40。RAL7028の系統ではあるが、どの色見本とも少し異なっている印象。しいて選べばタミヤ・ダークイエロー2が近いものの、実物は緑味が弱い。
4.5ボルト平型乾電池の収納ケース。生産年は不明だが箱の裏側にはインクスタンプによるバッフェンアムトが残る。AK インタラクティブ のRAL7028 1944年版が近く、実物の方がやや明るい。他の実物とは明らかに異なるグレイ味が強い色調のダークイエローで塗装されており、手持ち品の中では唯一1944年版ダークイエローの可能性がある。
フタの内側。表側と同じ色の塗装が残る。
金属製ケースに収納された1メートル測距儀。本体、調整板、金属製ケース共に、ダークイエローで塗装。この3点はすべて同一メーカー(fwq)で製造されている。
1944年に製造された「Em 1m R36 B」。
わずかに白っぽいものの、ガイア・ダークイエロー2が近い。
測距儀に同梱される調整板。測距儀の光学系を調整する際に使用する。
1メートル測距儀と全く同じ色。測距儀と同じ塗料を用いていると思われる。
測距儀と付属品を収納する金属製ケース。ダークイエロー単色の上に、茶と緑の迷彩塗装が施された外観は傷が目立つものの、内部の塗膜は極めて良いコンディションを保っており75年以上の経年を全く感じない。
測距儀・調整板にかなり近い色味であるが、わずかに緑味が強く暗い。ここでもガイア・ダークイエロー2が近似の色。
本ページで紹介している測距儀関連の6点はすべて Saalfelder Apparatebau Gmbh(メーカーコード fwq)であるが同一メーカーでも色味には差異が確認できる。
■まとめ
オリジナルのダークイエローが残る14点を比較した結果、「ガイアノーツ」のダークイエロー2が実物の色に近い事が分かる。グレイ味が強い平型乾電池収納ケースを除き、緑味が強く黄味が弱いダークイエローで塗装されているという傾向はどれも同じ。ここで示した実物は塗膜の劣化が少ない内側と外側の色味も揃っており、経年による塗膜の変色も少なそう。RAL7028はおおよそこのような色味であったことが予想されるが、最新科学の力で実物の色を忠実に再現したという「AKインタラクティブ」の塗料とは差異があった。
数か月で変更されたRAL無しダークイエローは該当する実物が無かったため、どのような色であったのかは不明。しかしRAL無しを再現した各社の色味はカーキ寄りのダークイエローであることから、おおよそこのような色であったと思われる。
レストアなどでダークイエローを塗る際には、1943年2月から数か月の間に生産されたものという明確な線引きがない限り、ガイアノーツ・ダークイエロー2の色を参考にするのが良さそうだ。