■レシーバー その1
レシーバーを構成するフレームはスチールのプレス製。補強のために各部にはリブが設けられている。ここで紹介している銃は一見すると黒の焼き付け塗装にも見えるような黒味の強いブルーイング仕上げ。末期に生産されたものにはパーカーライジング仕上げなども存在する。
MP44の主要外装にはプレス製部品とスポット溶接を大幅に取り入れ、コストの削減と生産時間の短縮を実現した。手間の要する削り出し部品は銃身、ボルト、ボルトキャリア、引き金機構、レシーバーブロック、リアサイト等の限られた部品のみとなっている。MP44の生産コストは1挺あたり66ライヒスマルク、Kar98kは大戦末期になると56ライヒスマルクなのでコスト高ではあるが、生産に要する時間はKar98kがおおよそ18.9時間に対してMP44はほぼ同じ19時間(14時間とする資料もあり)となっている。
フレームを上面から見ると、幅の薄い銃であることがわかる。
左側はフラットであるがレシーバーの右側のみ金属表面に細かな凹凸が確認できる。ほぼ黒に近いブルーイングとラフな表面仕上げにより、まるで出来の悪い金属製モデルガンのような印象を受ける。
トリガーメカニズムの各部品はピンでフレームに固定されているが、ピンは頭がつぶされており抜けない。つまり部品交換ができないので故障が発生した場合にはフレームごと交換するようだ。安全装置のピンだけはEリングで固定されている。
MP44のレシーバーは補強リブに差異が確認できる。1か所目はマガジンハウジング側面のリブの有無。「リブ無し」は1945年製に多く、45年以前の生産銃ではほとんど確認できないため後期型の特徴といえる(写真の銃はリブ無し)。2か所目はグリップフレームのすぐ上にあるリブ。長いものと短いものの2種類が存在する。こちらも1945年以前の生産型には「長い」タイプしか確認できないため、「短い」リブを持つMP44は後期生産型と思われる(写真の銃は短いタイプ)。
「リブ有り」で「リブが長いタイプ」と「短いタイプ」、また「リブ無し」で「リブが長いタイプ」と「短いタイプ」の組み合わせで4タイプのレシーバーが生産されたようである。資料によっては、生産時期ではなく生産工場による違いとの記述もあるが、現存する複数のMP44を確認する限りでは、生産時期による変更が有力と思われる。
マガジンハウジング側面にシリアル番号「3003F」と生産年の下2桁(1945年)が刻印される。
マガジンリリースボタンの上にある2本のピンはエジェクター固定用。
1944年末には「MP44」から「Stg44」という名称に変更されているが1945年製でも「MP44」と刻印されたものが多く、「Stg44」と刻印された個体は少ない。大量の部品在庫のため刻印の切り替え時期が遅れたものと思われる。
グリップの上部にあるレバーが安全装置。写真では「S」が見えており安全装置が掛かった状態。引き金はロックされて引くことはできない。
「F」が見えており、射撃可能な状態。グリップを握ったまま安全装置を解除できる優れた位置にある。
グリップパネルの上方にある突起がセミオートとフルオートを切り替えるセレクター。
レシーバー左側から押し込むと右側に「D」(Dauerfeuer)が表示され、フルオート射撃となる。1944年から本格的に量産が開始された7.92×33mmクルツ弾であったが弾薬生産の中心は依然として7.92×57mm弾であり、前線部隊を満足させるだけの十分な弾薬量は配備が難しかったようだ。そのため緊急時を除いては、弾薬消費量を抑えるためにフルオート射撃を禁止する命令が出ていたとの記述もある。
反対に押し込むと左側に「E」(Einzelfeuer)が表示されセミオート射撃となる。
グリップは適切な角度を持っており、引き金までの距離も適当で握りやすい。ディスコネクターの部品が内側に収納されているため、トリガーフレーム側面の一部は長方形に膨らんでいる(写真の左上)。
MP44は伏せ撃ちで邪魔になる長いマガジン、過熱した銃身の熱を遮断できない簡易なハンドガード、5㎏以上ある重量などが欠点として挙げられるが、各部が人間工学に基づいて設計されているため、取り扱い・操作性は良好である。装薬を7.92×57mm弾から半分としたクルツ弾の採用、5㎏以上ある銃本体の重量、500~600発/分のやや遅い発射速度、銃身・ボルト・ストックがほぼ一直線となる構造などから、発射時の銃口の跳ね上がりが少なく、フルオート射撃でのコントロール性能は優れている。
グリップパネルは木製とベークライト樹脂の2種類がある。本銃には木製が付属。