■Kar98k用 革製スリング / Karabinerriemen
Kar98k用の革製スリング。独軍名称は「Karabinerriemen」。第二次大戦中の製造メーカーはドイツ国外も含め40社以上に及び、G.41、G.43、MP43、MP44、StG44にも使用された。銃本体の生産数からこのスリングは1,500万本程度の生産数と推測できる。
状態の良好な独軍オリジナル品は入手が難しくなってきており、価格が高騰している。戦後生産品、安価なリプロ品、オリジナルに似せた精巧なリプロ品など様々なスリングが流通しており真贋の見極めが難しいアイテムの一つ。本項では断定はしないものの、おそらく独軍オリジナル品と思われる4本を紹介する。
独軍主力小銃のスリングにも関わらず、正確な長さなど、情報が意外と少ない。1937年、日本政府がマウザー社に2万挺のKar98kを発注した際にマウザー社が詳細な仕様書を作成している。この中にスリングに関する記述があり基本情報が確認できる。
「スリングは天然皮革から製造する。厚み:3.5㎜+0.5㎜ 幅24㎜+0.5㎜ 長さ:1,220㎜+5㎜。皮革は良好で全体にシボがあり、最も薄い部分でも堅牢でなければならない。革はよくなめされており、切り口は栗色、目立つ明暗の縞が無いものが望ましい。油分の含有率は厚さ2.5㎜以上のスリングで5~13%、厚さ2.5㎜未満のスリングは4~10%。」
スリングの長さは122cm、厚みは3.5mm、幅は24mmが基本。経年や摩耗、革の縮みや伸び、また製造メーカーによっても若干の差異があり、特に長さ方向では±5cm前後の幅が生じるものの、このサイズよりも大幅に長い・短いものは非オリジナルである可能性が高い。
マニュアルに掲載されたイラスト。スリングはベルト(Riemen)、長さ調整金具(Klemmstück)、ベルトループ(Riemenschieber)、ベルトストッパー(Haltestück)で構成されている。
ベルトの表面には「魚の皮(Fischhaut)」と呼ばれるひし形模様と両サイドに凹線が加工される。ごく一部を除き、Kar98k用スリングにはこの模様がある。
ベルトストッパー取り付け部。穴は水滴型で3つ並んでいる。通常は一番端の穴しか使わない。
長さ調整金具はスチール製で黒染めまたは焼き付け塗装仕上げが多く、仕上げ無しやパーカライジングもあるようだ。ベルトを金具内に通し、バックルピンをスライドさせて留める。
バックルピンはベルト表面で滑らないように、細かい凹凸が加工されている。
長さ調整金具は銃の木製ストックに傷をつける可能性があるため、銃と接する側にのみ革が貼られている。この革は摩耗しやすく外れやすい。
前方スリング金具取り付け側。ベルトループの表面にもスリング本体と同じ模様が加工されている。
スリング後部に取り付けるベルトストッパー。ボタンの付いたスチール板を革で覆っており、堅固な作り。第二次大戦前の製造品の一部にはスチールではなく真鍮が使用されている。
独軍オリジナルと思われるスリング4本の比較。
(A) 長さ:1,260mm 幅:23.5mm 厚さ:3mm
(B) 長さ:1,235mm 幅:22.5mm 厚さ:3.8mm
(C) 長さ:1,195mm 幅:23.1mm 厚さ:3.8mm
(D) 長さ:1,225mm 幅:23.0mm 厚さ:3.8mm
表面の模様は経年、摩耗で消えてしまう事が多々ある。(B)と(D)はやや薄く、(C)は模様が完全に失われている、市場にある独軍オリジナル品の多くはこのような状態にあり、オリジナルを判断する重要な手がかりが失われている。
4本ともに穴は3つで水滴型。(A)のみ間隔が異なっている。
赤矢印で示した箇所にはベルト接続用のピンが設けられている。オリジナル品はピン取り付け後に、金具側面を研磨し平面に仕上げてある(後期生産品など一部例外あり)。
ベルトストッパー6点。写真左の3点については独軍オリジナル品と思われる。※右の3点は刻印が確認できない
裏面の刻印。左:「jvf 1941」、中央は不明、右:一部不鮮明だが「Curt Voge Cottbus 1940」と読める。