■DF10×80 の分解 その1


製造から80年近くが経過した光学機器が新品同様のコンディションを保っていることはほぼ無く、レンズのクモリ、カビ、ゴミなどの付着は避けられない。このDF10×80もレンズ表面が汚れており、本来の光学性能を発揮できない状態にあった。光学機器は「綺麗に見えてこそ価値がある」という考えのもと、分解・清掃を実施した。

独軍光学機器の場合、分解方法が不明・困難という箇所は少なく、ハードルは比較的低い。各種ネジも適切なサイズのドライバーさえあれば手の力でも回すことができる。

DF10×80の分解は対物レンズ部の取り外しからスタートするが、眼幅調整機構のため分解手順は左右で異なる。右対物レンズ部は外側に見える4本のマイナスネジを外すだけ。左側にはネジが無いため分解方法に迷うが、対物レンズ前面にある固定リングを外して対物レンズ鏡胴を取り出す。













直径81mmの対物レンズは光学特性の異なる2枚のレンズを接着させたアクロマティックレンズを採用。

1936年、光学機器の発展に大きな影響を与える技術「レンズコーティング」がカールツァイスによって開発された。ガラス表面の光反射を抑え光の損失を抑える初期のコーティングは非常に柔らかく傷が付きやすいため、双眼鏡本体の内側のレンズのみに塗布された。このコーティングが施された光学機器には「T」の記号が刻印されている。

DF10×80(45度傾斜)はほとんどがレンズコーティング無しだが、ライツ社の末期生産品の一部にのみコーティングされた例が確認できる。

アルミ製鏡胴に収まる対物レンズ部は左右で共通。写真左の鏡胴には本体のシリアル番号と一致する「317」の手書き数字が確認できる。




左光学部に残る対物レンズ外筒は奥に見える6本のマイナスネジを緩めて外す。奥にはプリズムが見える。













左側は筐体内部に筒が収まる2重構造。




筒の内側は不用意な光の反射を防止するためつや消しの黒で塗装されている。




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