■D.F.6× その2


1915年製造のカールツァイス製双眼鏡はどのくらい見えるのか?最も興味を惹く点であるが、100年以上を経た光学機器の光学系が新品に近い状態を維持していることはほぼ無く、汚れている。掲載品も強いクモリとカビがレンズとプリズムに付着しており、製造当時の性能を体験するのは困難である。

そこで分解し、清掃を試みる。Dienstglas 6×30の分解ページで書いた通り、双眼鏡の分解は想像以上にハードルが高い。それは工具で挟むと容易に変形してしまうレンズ筒などの部品が強固にネジ込まれており、劣化したグリスやシール剤の固着がさらに追い打ちをかける。回らない部品は接合部に灯油系の溶剤を染み込ませる、ドライヤーで温める、熱湯をかけるなどの方法も併用し分解を進める。










24㎜径の対物レンズはアルミ製?鏡胴に収まり筐体にネジ止め、外側に真鍮製の保護リングが付く。鏡胴内側は反射防止の溝が加工されている。




接眼レンズ鏡胴と視度調整リングは3つの小さなイモネジで固定。このイモネジはリング部品によってカバーされる。




光の反射を防ぐ細かな段差がモールドされた樹脂製(エボナイト)の目当て。ネジの接合部には真鍮製部品が埋め込まれている。




接眼レンズの主な構成部品。いずれも真鍮製。




2群3枚で構成されたケルナー式と呼ばれる接眼レンズ。接眼レンズ径は11㎜。真鍮製の鏡胴が美しく、こちらも内側には反射防止の溝を加工。部品一つ一つに手間とコストが掛かっている。








接眼レンズ鏡胴を差し込む筒の側面には製造時の識別マーク?として手書きで数字が書き込まれている。




視度調整の目盛りが刻まれたリングは別部品だが一体部品のように見える。さらにこの部品は逆ネジのため、分解の際には注意する。この部品を外さないと、接眼レンズは取り出せない。以後、第二次大戦までに製造された多くのドイツ軍光学機器は同様の部品で逆ネジを採用している。










前後のプリズムカバーは真鍮製。1916年の中頃から(製造番号610,000前後)材質が亜鉛合金製に変更されており、真鍮→亜鉛合金への材質変更は対物レンズ筒や接眼レンズユニットなど他の部品にも及んでいる。




カバーを固定する3本のネジも真鍮製。この時代のマイナスネジは頭のマイナス線が細く、市販されている一般的なマイナスドライバーでは回せない。ヤスリで先端を削り、幅の細いマイナスドライバーを自作する。






アルミ合金製筐体に収まる4つのプリズムは対物側、接眼側(対物側に比べサイズが大きい)それぞれ専用品となっており、上下もある。左右も調整しながら組み込んでいるようなので、左右のプリズムが混ざらないよう注意する。

カビやクモリなど1世紀以上の経年によるレンズやプリズムの汚れはガラスに傷をつけない研磨剤を使用して丁寧に磨くと、ほとんどの場合除去でき、新品に近い状態まで戻せる。



対物レンズ側のプリズム。プリズム固定面は一段低く加工されており、収まったプリズムは正しい位置で高精度に固定される。再組み立てによる光軸ズレも生じない。プリズムは0.1mm程度でも取り付け角度がずれると光軸ズレが生じるため、筐体との固定面に薄い金属板をはさみ角度を微調整しながら組み立てられる。

対物レンズの奥のみ、内壁が黒い塗料で塗装されている。




カールツァイス・イエナの工場で組立て担当となった人物の名前だろうか?サインと思われる文字がプリズム押さえ板に書き込まれている。








できるだけ大きなプリズムを筐体内に収めるため、内壁の一部は1mmほどの薄肉となっており、プリズム形状に合わせた切れ込みが設けられている(赤い矢印の部分)。プリズムと内壁は僅かな隙間しかなく、プリズム組み込み時には決まった角度・向きで差し込まないと所定の位置に入らない。接眼レンズ筒の奥は反射防止のため黒色で仕上げてある。




筐体内壁は未加工?でザラザラのまま。



新品に近い状態となったD.F.6を覗く。

・古い光学機器から連想される甘い描写は皆無
・中央は解像度が高く繊細 Dienstglas 6×30と同等かやや上
・周辺視野は像が流れるものの、Dienstglas 6×30よりも良好な像を結ぶ
・コントラストはDienstglas 6×30より良好 自然な色合いだが色がやや濃く感じる
・夜間で明るい光源などがある場合、フレアやゴーストが生じるもののDienstglas 6×30より大きく低減
・20mくらいから無限遠まではピント調整が不要 ピントが合って見える範囲が広い これはDienstglas 6×30と同じ
・アイレリーフが長くケラレなどが生じにくい
・実視界6.9度で視野はやや狭い

日中での使用に関しては100年以上前という古さは全く感じることがなく、十分に実用に耐える性能がある。24mmという対物レンズ径や生産された時代を考慮すれば驚くべきハイレベルな見え味で、第二次大戦の主力双眼鏡(Dienstglas 6×30)を多くの点で上回っている印象。視野が狭いので広角双眼鏡のような爽快感は無いが、長時間の使用でも使いやすい。双眼鏡としては平凡なスペックならが、その性能は光学機器先進国であったドイツの技術力を実感できる。

現代の双眼鏡と比べ劣る部分が光の透過率を大幅に向上させ、反射も低減するレンズコーティングが施されていない点。夜間使用時の特に強い光源が点在するようなシーンでは苦戦を強いられるが弱点はこのくらいしかない。




視野の比較。黄色の円の内側がD.F.6の視野。




もどる