■サイト(照準器)


パンツァーシュレックのサイトは使用するロケット弾の種類によって射程距離や初速が変わるため、段階的に改良が実施された。

極初期・・・フロントサイトは照準調整用途のみ調整可、リアサイトは固定式
初期・・・フロントサイトは上下に、リアサイトは固定式
中期・・・フロントサイトが大きくなり上下に調整可、リアサイトは左右へ調整可
後期・・・リアサイトは左右調整に加え偏差射撃にも対応、フロントサイトは上下に調整可
末期・・・全長短縮型のRPzB 54/1に採用。射程が延長された新型ロケット弾(R PzB Gr 4992)に対応する照準器。

また同じ弾薬でも装薬の温度によって初速が変化する性質があったため、射手はこの問題をこれまでの射撃経験によって自ら修正する必要があった。




■サイト 極初期型


初期のサイト。リアサイトは調整できない単純な固定式。フロントサイトは事前の照準調整用として上下に調整ができる(マイナスネジで固定)ほか、目標を狙う射手の視野をできる限り確保するため大きな開口部が設けてある。フロントサイトポストは上下に2か所あり、下は冬用弾薬、上が夏用弾薬の照準となる。細いフレームが突き出したフロントサイトは変形や破損することも多かった。




■サイト 初期型








リアサイトは固定式から変更なく、フロントサイトが改良される。フロントサイトポストが1か所となり手で回せるつまみネジを緩めることで「夏用弾薬」と「冬用弾薬」に適した位置へ調整可能。「Marke für +20℃」が夏用、「Marke für -25℃」が冬用のサイト位置。また視界を確保していた開口部は一部を残しプレートで塞がれている。これは発射ガスを遮断しシールドに装着されたガラス板の破損を防ぐ役割がある。




■サイト 中期型


照準調整用にリアサイトが左右調整できるように改良。フロントサイト本体は発射ガスをより効率的に遮断するために大型化し、プレートで塞いでいた開口部も埋められた。

フロントサイトは調整用に刻印が打たれており、
上の線・・・夏用弾薬
下の線・・・冬用弾薬
と2段階で調整するのは初期型と同じ。

本項で紹介しているパンツァーシュレックはこのタイプ。









つまみネジを緩めると、サイト板を上下に調整することができる。弾薬の種類や使用時期によって頻繁に調整が必要なため、工具なしで調整できるつまみネジを採用。

フロントサイトのブレードは白で塗装されている。これは夜間射撃時の視認性向上が目的と思われる。









フロントサイトを分解。サイト裏側には「+20」「-25」の数字が雑な調整線と共に打たれている。










リアサイトは左右に調整可能であるが、頻繁に調整する必要が無いのでマイナスネジ止めとなっている。







射手からの目線。シールドによって視野は大幅に遮られており、大型のフロントサイトプレートにより目標周辺の状況も確認しずらい。また日中の明るい時間帯は白いフロントサイトの視認性が低く、使い勝手は悪い。

なお照準の際には不自然な射撃姿勢にならない範囲で、リアサイトと目の距離をできるだけ離す(照準の精度がより高くなる)ことを勧めている。




■サイト 後期型




移動目標に対する照準位置の修正に対応したリアサイトプレートを装備。マイナスネジを緩めて左右への調整も可能。停止状態または正面目標には中央、その左右「15」のノッチは15km/hの速度・斜め45度で進む車輌への照準、両サイドの「30」は30km/h・斜め45度で進む車輌への照準を示す。車輌が横切る場合にはさらなる追加修正が必要。




■サイト 末期型




初速と射程距離が増加した新型ロケット弾(R PzB Gr 4992)に対応したフロントサイト。全長が短縮されたRPzB 54/1に採用されている。「150」の下の線は夏用と冬用サイト位置の調整用。




■照準調整・弾道

照準線と目標までのロケット弾弾道の変化を示した図。ロケット弾の推進薬は発射後、極短時間で燃焼が終わってしまうため飛翔中は加速せず弾道は大きな放物線を描く。また、パンツァーシュレックの照準線は発射筒と並行ではなく、発射筒がやや上向きの角度となるよう設定されている。

このため射距離に応じて単純に仰角を増やしていく一般的な照準調整では命中しない。
例えば上図のように60メートル先のT-34を狙う場合、車輌中央を狙って射撃するとロケット弾は命中せず砲塔上面ギリギリを飛び越える。「60m先だから少しだけ上を狙って...」などと余計な調整を加えれば確実に命中しない。




射距離による府仰角の修正。近距離(図では75メートル)では車体のやや下を狙う、120メートルでは照準点と弾道が重なるため狙った位置に命中する、遠距離(図では150メートル)では砲塔の一番上を狙うという調整が必要。




T-34戦車が照準器の上下枠にちょうど収まるサイズに見えると、目標までの距離が150メートルになる。




実際にパンツァーシュレックの照準器越しだとこのように見える。




15㎞/hの速度で横切る移動目標に対する射距離別の照準位置の修正。

パンツァーシュレックの射撃は、弾薬の種類、装薬の温度、改良が進む照準器、新型弾薬の導入に加え、射撃距離、目標の移動に対する修正射撃など、さまざまな要因を考慮しないと命中しない。単純なパンツァーファウストとは異なり、訓練されていない素人では扱えない火器であることが分かる。




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