■1942年製 測距儀 その3
測距儀左側の下に設けられた三角形型のレバーは42年製のみについている。操作すると、レティクルのパターンが切り替わる。43年製にこの機能は一切ない。
レバーの説明プレートには Messen(測距) ⇔ Beobachten(見る) とある。通常の測距時には写真のようにレバーをMessenに設定して使用する。
実際に42年製測距儀の接眼レンズから撮影した画像。「W」を90度横倒しにした形のレティクルが両眼に表示される。
この測距儀は製造後に1度も分解されていないと思われ、別ページでも紹介したように各部のネジ取り付け部まで徹底的にパテ埋めされ気密性を保っているためか、内部の光学系はわずかなカビを除き曇りや汚れはほとんどない。唯一、曇っていたのは外側に露出した接眼レンズのみ。ここだけは分解しレンズ清掃を行った。
レティクル形状は43年製と全く同じ。
Beobachten にレバーを動かすと、右目のレティクルパターンが切り替わり、左目のレティクルパターンは消えて何も表示されなくなる。なおこの三角型のレバーは測距儀を保持しつつ指一本で容易に切り替えができるデザインとなっている。
切り替わった右目のレティクル。
レティクル部分を拡大。さて、このレティクルは何を示すのか?
このレティクルを説明するプレートが接眼レンズの横についている。測距儀のマニュアルが無いので内容を推測すると、「Seite:1Teil=5/6400」は横の一目盛りが5/6400という意味であり、6400という数字から単位はシュトリヒ(ミル)。横の一目盛りが5シュトリヒを示すと思われる。
「Höhe:1Teil=5/16°」は縦の一目盛が5/16°の意味。記号から角度を示す「度」と思われ、その場合は縦の一目盛りが0.3125°= 5.55シュトリヒとなる。ただし、縦横でわざわざ異なる単位を用いていること、一目盛りの長さが縦横で微妙に異なるなど気になる点もあり、この推測が間違っている可能性もあるのでご注意いただきたい。
この目盛りを表示した場合、ステレオ式測距儀としては機能しない。予め対象物の大きさを頭に記憶(例えば敵戦車の全長や車幅)し、表示目盛りと対象物を重ねる事で距離を算出できる。戦車の照準器や双眼鏡に表示されるレティクルから距離を計算するのと同じ原始的な方法となる。
ソビエト戦車のT34/76を例にして画像のように10シュトリヒ(2目盛り分)で側面が見える場合、T34/76の全長は約6.6メートルなので、戦車までの距離は 6.6÷10 となり660メートルであることが分かる。
同様に車体前面が目盛り半分の2.5シュトリヒで見える場合、車幅が3メートルなので戦車までの距離は1,200メートルと測ることができる。ただしこの方法では対象物の大きさ情報が分からないと、距離が測定できない。観測者にはこれらの知識が求められる。
ここからは測距儀に装備された減光フィルターの効果を見る。減光フィルターは太陽などの強い光源を直視する場合に減光させるもので、サングラスと同じ。減光無し、減光1、減光2の3段階に切り替え可能。対物レンズの正面にはLEDライトを置き、これを強烈な光源に見立てて撮影。以後の2枚の写真も同条件で撮影しているため減光効果が比較できる。
まずは減光無し。LED光がダイレクトに接眼レンズへ届き、レティクルは強烈な逆光によりほぼ見えない。まぶしくて測距は不可能。
減光1の状態。大きな減光効果がありレティクルがはっきりと確認できる。光源周囲の光もほぼカットされまぶしさは感じない。なお光源が楕円形なのはライトヘッドが楕円形であるため。
減光3の状態。強烈なLED光も大幅に減光される。太陽の直視用であり、これ以外の用途では暗すぎてほとんど出番がない。